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名古屋高等裁判所金沢支部 平成8年(行コ)4号 判決

控訴人 金沢税務署長、松任税務署長、神田税務署長

代理人 河瀬由美子 堀悟 富士田義博 楠享士 池内牧子 ほか五名

被控訴人 セントラル航業株式会社 ほか四名

主文

一  原判決中、控訴人らの敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人らの請求のうち、原判決主文第二項の訴え却下に係る請求を除く請求をいずれも棄却する。

三  控訴費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

主文同旨

二  被控訴人ら

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、被控訴人セントラル航業株式会社外四社(以下、被控訴人ら各社の商号については株式会社を省略して表示する。)による昭和六二年から平成元年にかけての法人税の確定申告等に対し、控訴人ら所轄税務署長がした各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(その明細は原判決別表一ないし八に各記載のとおり)について、被控訴人らが右各処分(以下「本件各処分」という。)の取消しを求めた事案である。

控訴人らの被控訴人らに対する本件各処分は、東京証券取引所の第二部上場会社である訴外アジア航測株式会社(以下「アジア航測」という。)の株式(以下「本件株式」ともいう。)について原判決別表九記載の一連のいわゆる相対取引(以下「本件取引」あるいは「本件相対取引」という。)による譲渡及び譲受が被控訴人らの間で行われたとし、各譲渡人に対しては譲渡益の計上漏れがあるとしてその金額を各取引の決算期の益金に算入するとともに、それと同額を寄付金として損金不算入額に加え、各譲受人に対しては受贈益の計上漏れがあるとしてその金額を各取引の決算期の益金に算入するなどして被控訴人ら各社の所得金額を算出した上で行われたものであるところ、被控訴人らは本件各処分には処分の根拠となる法令の解釈及び適用並びに事実認定を誤った違法があると主張し、これに対して控訴人らは法令各取引日における本件株式の時価(証券取引所の終値)と現実の譲渡価格との差額は益金として算入すべきであり、その見解に従って行った本件各処分は適法であると主張した。

原審は、本件各取引については控訴人ら主張の右取引日における本件株式の証券取引所の終値を時価とみることはできず、他に本件株式の時価についての主張立証がないから、本件相対取引によって被控訴人らに発生したとする収益等の額がいくらであるのかについて証明がないことになり、控訴人らの本件各処分は違法であるとして、被控訴人らの請求を認容した(ただし、被控訴人太陽生コンクリートの原判決別表六の更正処分に係る請求については訴えを却下した)ので、右の請求認容部分を不服として控訴人らが控訴を提起した。

なお、被控訴人太陽生コンクリートと被控訴人デントレーディングは本訴係属中に解散している。

二  各当事者の主張は、次に付加するほか原判決の事実摘示中の「第二 当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人らの補充主張―控訴理由の要旨)

1  原判決は、上場株式の譲渡について法人税法二二条二項の適用に当たっての時価の算定につき、「特段の事情のない限り、当該株式譲渡がなされた当時(必ずしも「当日」に限らない)における取引所価格をもってその時価と解すべきである。」と判示したうえ、本件株式の当時の値動きの激しさからみると控訴人らが主張するように本件取引当日の終値をもって当該取引における時価であるとすることは正当でなく、控訴人らは本件株式の時価として右価格(取引当日の終値)のほか何らの主張立証をしないとして、本件相対取引によって被控訴人らに発生したとする収益等の額がいくらであるのかについて証明がないと結論づけている。

しかし、上場株式の時価は、その本質、法人税法二二条二項の趣旨、法令上の株式評価方法に関する規定の存在及び法的安定性の要請のいずれからみても、特段の事情がない限り、当該株式譲渡がなされた当日における取引所価格と解すべきであって、この点の原判決の解釈は誤っている。

2  本件において被控訴人らが主張する事情はいずれも右の特段の事情に該当しないから、本件各相対取引が行われた当日における取引所の株価を時価として被控訴人らに発生した収益等を算出した本件各処分は適法であって、控訴人らの請求はいずれも理由がない。

(被控訴人らの補充主張の要旨)

1  原判決は、本件株式の実質的な帰属主体について、被控訴人ら各社がその名義のとおり実質的にも取得していたものと判断しているが、本件の特質は、被控訴人セントラル航業の代表取締役であり、かつセントラルグループ各社の代表者でもある山田辰郎が、そのグループ企業全体の発展をはかるために、関連各社の名義を借用したものであって、それは、代表者であり圧倒的な株式保有者である山田辰郎の判断において株取引が行われた点にある。したがって、株式の実質的取得者が認定されたケースである稲村元環境庁長官の脱税事件(東京地裁平成三年一一月二九日判決・判例時報一四一四号一二六頁)等と同様に被控訴人セントラル航業のみが本件株式の実質的取得者と認定されるべきであり、法人税法一一条により同被控訴人のみが収益を享受するものとして課税されるべき事案であるから、これに反する控訴人らの課税処分は違法である。

2  仮に被控訴人ら各社がその名義どおり本件株式を実質的にも取得していると認定されたとしても、本件各取引に当たっては次のような事情が認められるから、控訴人らが主張する本件取引当日の証券取引所の終値をもって当該取引における時価とみて、法人税法二二条二項の収益の額として課税することは許されない。

(一) 被控訴人セントラル航業の関連各社は、同被控訴人に資金的にも営業活動においても深く依存し、同被控訴人が衰弱すれば関連各社も衰弱するという運命共同体の関係にあった。したがって、関連各社にとっても、被控訴人セントラル航業の遂行するアジア航測株式のM&Aの成功は、死活的意味があり、同被控訴人のM&Aを援助することが必要であった。

(二) 本件取引は、被控訴人セントラル航業が関連各社の名義を借用してアジア航測株を買い集めていたものを、M&Aの成功のためにグループ間で名義を移転するというために行われたものであり、市場を通すことによって改めて証券会社に多額の手数料を支払う合理性もなく、市場を通せばコンピューター銘柄のために第三者に買い取られてしまう危険性さえあったから、どうしても相対取引の方法をとる必要があった。

(三) 一般に相対取引の場合は、市場価格どおりに価格を設定しないのが多く、手数料が不要のため、市場価格より低い価格にする合理性を有している。

(四) 本件相対取引当時、アジア航測株の市場価格は、同社の企業実績や過去における安定していた当時の株価に比較して、被控訴人セントラル航業のM&Aのために異常な高値となっていた。

(五) また、本件取引を相対取引ではなく、市場を通して行うとすれば、アジア航測株の出来高の実績や被控訴人セントラル航業のM&Aがやがて終焉することなどの気配から、市場の混乱も予測された。

(六) もともと関連各社のアジア航測株式の取得は、実質は被控訴人セントラル航業に買主の名義を貸しただけであり、資金的にも労力のうえでも、完全に同被控訴人に依存しており、同被控訴人のおかげで、短期間の間に多額の利益を獲得することになる。したがって、関連各社は被控訴人セントラル航業に対し、あくまでも市場価格による取引を要求できる立場にはなく、同被控訴人のM&Aを助けることにより、自社の将来の安定を図るためにも、ある程度の値引きをすることは当然であった。

(七) そして、本件相対取引で採用された市場価格の二〇〇円引きという価格は、関連各社にとっても、取得価格や被控訴人セントラル航業に対し計上されている借り入れ利息を大きく上回って、短期間になお多額の利益をもたらすものであり、かつその価格は証券取引を知悉している証券会社の担当者のアドバイスという裏付けを得て決められたものであり、原審で主張した松坂屋株式の事案と下げ幅においてほぼ同じというように、決して不当視されるような下げ幅ではなかった。

(八) したがって、右のような状況のもとでは、関連各社が被控訴人セントラル航業の申し出に応じて市場価格の二〇〇円引きの相対取引を受入れ、短期間で多額の転売益を獲得しながら、同時に同被控訴人のM&Aを助けることにより自社の安定と発展を図ることは株式会社という合理的経済人の行動としても当然であった。

本件各取引は以上の事情のもとで行われたものであり、それが相対取引によらざるを得なかった必然性と、その取引価格自体の相当性及び価格決定経緯の合理性とを考慮すると、本件相対取引での価格が適正な時価というべきであり、少なくとも、本件各取引が市場価格(当日の終値)によらなかったことについてこれを正当とする特段の事情があるというべきである。

三  証拠関係は、本件訴訟記録中の原審及び当審の書証目録・証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三当裁判所の判断

一  当事者間に争いのない事実及び証拠によって明らかに認められる事実

右事実については、原判決の理由一項(原判決二八枚目表末行目から同三六枚目表一〇行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

二  本件株式の実質的帰属主体について

当裁判所も、本件株式は被控訴人ら各社がその名義のとおり実質的にも取得していたものであって、被控訴人セントラル航業のみに帰属するものではないと判断するが、その理由は、原判決の理由二項の1(原判決三六枚目表一二行目から同四二枚目表七行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する(なお、「M&A」は、一般には企業取得ないし企業買収を意味する用語であるが、本件においては、〈証拠略〉に照らして、企業戦略(業務提携・技術提携をねらいとする企業支配)の一環としての株式の大量購入を意味するものとして用いることとする)。

したがって、法人税法一一条の実質所得者課税の原則に反することを理由として本件各処分の違法をいう被控訴人らの主張は失当である。

三  資産の低額譲渡と法人税法二二条二項にいう収益の額について

法人税法二二条二項に規定する内国法人の各事業年度の所得の金額の計算に当たっては、譲渡時における適正な価額より低い対価をもってする資産の低額譲渡も同条項にいう有償による資産の譲渡に該当することになるが、この場合にも、当該資産には譲渡時における適正な価額に相当する経済的価値が認められるのであって、たまたま現実に収受した対価がそのうちの一部のみであるからといって適正な価額との差額部分の収益が認識され得ないものとすれば、右条項が収益の発生原因となることを認めている資産の無償譲渡の場合との間の公平を欠くことになる。したがって、右規定の趣旨からして、資産の低額譲渡の場合において益金の額に算入すべき収益の額には、当該資産の譲渡の対価の額のほか、これと右資産の譲渡時における適正な価額との差額も含まれるものと解するのが相当である(最高裁判所平成七年一二月一九日第三小法廷判決・民集四九巻一〇号三一二一頁参照)。右に反する被控訴人らの主張並びに原審証人北野弘久の証言及び同人の鑑定所見書〈証拠略〉中の右に反する部分は採用しない。

四  本件株式の適正価額について

そこで、本件株式の譲渡時(本件各相対取引時)の適正価額(以下「時価」ともいう。)についてみると、本件株式(アジア航測の株式)は東京証券取引所(以下「東証」ともいう。)の第二部上場株式であるから、特段の事情がない限り、上場された東京証券取引所における株価をもって自由競争の原理によって形成された適正価額と認めるのが相当である。そして、本件株式については、本件各取引の当日である昭和六二年七月一五日(この日に被控訴人センコウ商事が被控訴人太陽生コンクリートから相対取引で一〇万株を一株当たり七〇〇円、合計代金七〇〇〇万円で取得した。)における本件株式の東証の最終公表価格(以下「終値」という。)が一株八九七円、同月一六日(この日に被控訴人セントラル開発が被控訴人デントレーディングから相対取引で一〇万株を一株当たり六五〇円、合計代金六五〇〇万円で取得した。)における終値が一株八五〇円、同年九月一六日(この日に被控訴人セントラル航業がいずれも相対取引で、被控訴人センコウ商事、被控訴人セントラル開発及び山田物産株式会社からそれぞれ一一〇万株、一一〇万株、二一万株を一株当たり一一〇〇円、合計代金二六億五一〇〇万円で取得した。)における終値が一株一三〇〇円であったことは当事者間に争いがなく、控訴人らは被控訴人ら各社の所得金額の算出に当たって益金算入等の基礎として右の終値を用いたものである。

被控訴人らは、本件各取引については被控訴人セントラル航業のM&A目的のためにした相対取引であること等を理由として、証券取引所における株価ではなく現実に各当事者が取引をした譲渡価額(東証の終値より概ね二〇〇円引き)を適正な時価とみるべき特段の事情がある旨主張する。

しかしながら、本件各取引が被控訴人セントラル航業のM&A目的のためになされたことは被控訴人らの内部事情に過ぎず、そのことは取引の対象とされた本件株式の客観的な交換価値自体に影響を与えるものではないから、これをもって右取引当時の証券取引所の株価が適正時価であることを否定する理由にはならないというべきである。のみならず、本件各取引において現実の譲渡価額を決定した理由については、原審及び当審における被控訴人ら代表者山田辰郎の供述によっても、証券会社の担当者のアドバイスを得て同族会社である被控訴人各社の代表取締役であった右山田の一存で東証株価の二〇〇円引き程度の値段にしたという以上の事情は窺えず、東証株価の二〇〇円引きにしたことについて説得的あるいは合理的な説明はない。被控訴人ら代表者山田辰郎は本件各取引を証券取引所を通さずに相対取引で行った理由については、手数料がかからないこと、取得希望先が確実に取得できること、大量の株式の放出によって市場を混乱させないためである等と供述しているところ、右の理由は被控訴人らが本件において相対取引をした理由としては十分理解できるものの、相対取引の譲渡価額を東証株価より二〇〇円も下sげることにした合理的な理由にはならないといわざるを得ない。

また、アジア航測の株式の東証株価が昭和六二年六月以降急に値上がり傾向となり、同年九月にかけての値動きも相当激しかったこと(その具体的な値動きについては原判決四三枚目裏四行目から同四四枚目裏八行目までの認定のとおりである。)は否定できないが、右市場株価の上昇と変動は被控訴人がM&A目的のもとで大量にアジア航測の株式を買い占めている状況下において自由競争によって形成されたものというほかはない(被控訴人セントラル航業のM&A目的の大量買い取りに乗じて、いわゆる「ちょうちん」の介入があったとしても、それは株式市場における自由競争として許されるものであるし、他に右の株価が法規に違反するような不公正な株価操作によって定まったことを窺わせるに足りる証拠はない。)のであるから、右の程度の値動きがあったからといって、そのことによって、右の東証株価がアジア航測の会社の実勢と乖離した不当な高額になったとまでいうことはできず、控訴人らが被控訴人ら各社の所得金額算出に当たって益金算入等の基礎とした本件各取引日における東証の終値が適正時価であることが否定されるものではない。他に、本件各取引について右取引日の東証の終値を適正価額とみることを不当とする特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

なお、被控訴人らは、平成五年一月に株式会社松坂屋の株式が秀和株式会社を通じて市場価格より低額で譲渡されたケースにおいて、右市場価格と現実の譲渡価額との差額について課税されなかったことを自己に有利に援用するが、右の松坂屋のケースについては、秀和と松坂屋の株主との間の取引は対立した第三者間の取引であり、控訴人らが主張するとおり、需要と供給の競争原理が働いて現実の譲渡価額が決定されたといえるもので、市場価格との対比においても右の現実の譲渡価額を適正時価と評価しうる特段の事情を認めうるケースであったということができ、同族会社間において共通の代表取締役の一存で合理的な理由もなく市場株価より二〇〇円程度も低額の譲渡価額が定められた本件とは事案を異にするものであるから、前記の判断を左右しない。

五  また、本件各相対取引に係る事由以外の本件各処分の根拠・理由については、被控訴人らにおいても積極的に争っておらず、弁論の全趣旨によれば、いずれも控訴人らの主張の根拠・理由に基づいて適法になされたものと認めることができる。

六  以上の検討によれば、被控訴人らの申告に係る各年度の法人税の申告等に対し、本件各取引について控訴人らが認定した本件株式の時価(各取引日における東証の終値)と現実の譲渡価額との差額に相当する金額を益金に算入し、また、右金額を寄付金として損金不算入額に加える(法人税法三七条七項参照)などして被控訴人ら各社の所得金額を算出して行った本件各処分に違法はないことになる。

したがって、被控訴人らの本訴請求(控訴人らが原判決について不服の対象とした請求)についてはいずれも理由がないからこれを棄却すべきである。

第四よって、原判決中控訴人らの敗訴部分を取り消した上、被控訴人らの請求のうち、原判決主文第二項の訴え却下に係る請求を除く請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 窪田季夫 氣賀澤耕一 本多俊雄)

(参考)第一審(平成四年(行ウ)第一号 平成八年七月一九日判決)

主文

一 次の各処分をいずれも取り消す。

1 被告金沢税務署長の原告セントラル航業株式会社に対する昭和六二年七月一日から昭和六三年六月三〇日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(平成二年六月二七日付)

2 被告金沢税務署長の原告センコウ商事株式会社に対する昭和六一年九月一日から昭和六二年八月三一日まで及び同年九月一日から昭和六三年八月三一日までの事業年度の法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(平成元年一二月二六日付)

3 被告金沢税務署長の原告セントラル開発株式会社に対する昭和六一年九月一日から昭和六二年八月三一日まで及び同年九月一日から昭和六三年八月三一日までの事業年度の法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(ただし、後者の事業年度については、国税不服審判所長の平成三年一一月一二日付裁決によって取り消された部分を除く)(平成元年一二月二六日付)

4 被告松任税務署長の原告太陽生コンクリート株式会社に対する昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(平成二年三月二七日付)

5 京橋税務署長(その承継人被告神田税務署長)の原告デントレーディング株式会社に対する昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(平成二年二月二七日付)

二 本件のうち、次の部分の訴えを却下する。

被告松任税務署長の原告太陽生コンクリート株式会社に対する昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分(平成元年一二月二五日付)

三 訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一 請求の趣旨(原告ら共通)

主文二記載の処分の取消をも求めるほか、主文一及び三同旨

二 請求の趣旨に対する答弁(被告ら共通)

1 原告らの請求を全て棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一 請求原因(原告ら共通)

1 本件各処分(請求の趣旨において原告らが取消を求めている各処分を「本件処分」といい、また「本件各処分」と総称する)

(一) 原告セントラル航業株式会社(以下「セントラル航業」という)について

セントラル航業は、測量業などを営む株式会社であるところ、昭和六二年七月一日から昭和六三年六月三〇日までの事業年度(以下で、各原告について係争の事業年度を「本件係争年度」ということがある)について、別紙課税処分経緯表(以下「別表」という)一記載のとおり、法人税確定申告書及び修正申告書を提出した。

これに対して、別表一記載のとおり、被告金沢税務署長は、過少申告加算税の賦課決定処分をし、さらに更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件処分)をした。

(二) 原告センコウ商事株式会社(以下「センコウ商事」という)について

センコウ商事は、測量機器の販売業などを営む株式会社であるところ、昭和六一年九月一日から昭和六二年八月三一日までの事業年度(以下「昭和六二年八月期」という)及び同年九月一日から昭和六三年八月三一日までの事業年度(以下「昭和六三年八月期」という)について、別表二及び三記載のとおり、法人税確定申告書を提出した。

これに対して、別表二及び三記載のとおり、被告金沢税務署長は、両事業年度の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件処分)をした。

(三) 原告セントラル開発株式会社(以下「セントラル開発」という)について

セントラル開発は、建物の賃貸管理業などを営む株式会社であるところ、昭和六一年九月一日から昭和六二年八月三一日までの事業年度(以下「昭和六二年八月期」という)及び同年九月一日から昭和六三年八月三一日までの事業年度(以下「昭和六三年八月期」という)について、別表四及び五記載のとおり、法人税確定申告書及び修正申告書を提出した。

これに対して、別表四及び五記載のとおり、被告金沢税務署長は、重加算税の賦課決定処分をし、さらに両事業年度の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件処分)をした。

(四) 原告太陽生コンクリート株式会社(以下「太陽生コンクリート」という)について

太陽生コンクリートは、生コンクリート製造業を営む株式会社であるところ、昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度(以下「昭和六三年三月期」という)及び同年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度(以下「平成元年三月期」という)について、別表六及び七記載のとおり、法人税確定申告書を提出した。

これに対して、別表六及び七記載のとおり、被告松任税務署長は、昭和六三年三月期について更正処分(本件処分)をし、平成元年三月期について更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件処分)をした。

(五) 原告デントレーディング株式会社(以下「デントレーディング」という)について

デントレーディングは、食肉加工機械販売業などを営む株式会社であるところ、昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度について、別表八記載のとおり、法人税確定申告書を提出した。

これに対して、別表八記載のとおり、承継前の被告京橋税務署長は更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件処分)をした。

2 本件各処分の違法性

(一) 被告らの原告らに対する本件各処分は、訴外アジア航測株式会社(以下「アジア航測」という)の株式(以下「本件株式」という)について別表九記載の一連のいわゆる相対取引(以下「本件相対取引」という)による譲渡及び譲渡行為が原告らなどの間で行われたとして、各譲渡人に対しては譲渡益の計上漏れがあるとしてその金額を各取引の決算期の益金に算入するとともに、それと同額を各譲受人に対する寄付金であるとして、各譲受人に対して受贈益の計上漏れがあるとしてその金額を各取引の決算期の益金に算入して行われたものである。

(二) しかし、本件各処分には、処分の根拠となる法令の解釈及び適用並びに事実認定を誤った違法がある。

よって、原告らは、請求の趣旨記載のとおり本件各処分の取消を求める。

二 請求原因に対する認否(被告ら共通)

1 請求原因1はすべて認める。

2 請求原因2の(一)は認め(ただし、後述のとおり、デントレーディングについては右のほかに交際費のうち益金に算入した部分がある)、(二)は争う。

三 被告らの主張―本件各処分の適法性等について

1 セントラル航業

(一) 本件処分の根拠及び適法性

金沢税務署長が認定したセントラル航業の本件係争年度の所得金額は三億八九三九万五〇七七円である。

(1) 申告所得金額         五九七八万一七二七円

(2) 有価証券受贈益の計上漏れ     四億八二〇〇万円

セントラル航業は、センコウ商事、セントラル開発及び訴外山田物産株式会社(以下「山田物産」という)から、昭和六二年九月一六日(被告らの調査では同月二一日)、同順に本件株式一一〇万株、一一〇万株、二一万株の合計二四一万株を一株一一〇〇円で相対取引により取得したとしている。

アジア航測は東京証券取引所第二部に上場されており、本件株式については、相対取引価額一一〇〇円ではなく、東京証券取引所が公表した昭和六二年九月一六日の最終株価である一株一三〇〇円をもって時価とすべきであるから、本件株式の取得価額と時価額との差額は、法人税法(以下「法」という)二二条二項に規定する「無償による資産の譲受け」を受けたものとして、一株あたりの差額二〇〇円、総額四億八二〇〇万円を所得金額に加算する。

(3) 有価証券譲渡益の過大計上 一億四八二一万四三三〇円

セントラル航業は、昭和六二年九月二八日、当時同社が保有していた本件株式のうち二〇万株を証券取引所を通じて譲渡し、譲渡価額四億三〇八九万一二八〇円から譲渡原価の額一億二四五五万三二七〇円を差し引いた三億〇六三三万八〇一〇円を有価証券譲渡益として本件係争年度の所得金額に加算しているところ、セントラル航業が本件係争年度中に取得した本件株式二四一万株の取得価額は、一株一三〇〇円の時価によるべきであるから、総平均法による原価法に基づいて右二〇万株の譲渡原価の額を計算すると、二億七二七六万七六〇〇円となり、セントラル航業の本件係争年度の有価証券売却益は、譲渡価額四億三〇八九万一二八〇円から譲渡原価の額二億七二七六万七六〇〇円を差し引いた一億五八一二万三六八〇円である。

したがって、セントラル航業が計上した有価証券売却益三億〇六三三万八〇一〇円から一億五八一二万三六八〇円を差し引いた一億四八二一万四三三〇円は過大計上であるから、所得金額から減算する。

(4) 寄付金の損金計上漏れ      四一七万二三二〇円

セントラル航業の本件係争年度における寄付金の額等に、前記(2)の金額を加算し、前記(3)の金額を減算した金額に基づき、寄付金の損金不算入額を計算すると、セントラル航業の本件係争年度における寄付金の損金不算入額は八万五七五九円となるから、修正申告書の損金不算入額四二五万八〇七九円との差額四一七万二三二〇円を所得金額から減算する。

(5) 所得金額         三億八九三九万五〇七七円

(6) 課税留保金額         四六一三万七〇〇〇円

(7) 同金額に係る税額        五四二万〇五五〇円

(二) 国税通則法(以下「通則法」という)六五条四項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、セントラル航業に正当な理由があるとは認められないから、本件処分により新たに納付すべき法人税の税額一億四三八五万円に、同条一項及び二項を適用して計算した二〇五三万九〇〇〇円を過少申告加算税として賦課決定した。

2 センコウ商事

(一) 昭和六二年八月期に係る本件処分の根拠及び適法性

金沢税務署長が認定したセンコウ商事の昭和六二年八月期の所得金額は六四二二万六六一六円である。

(1) 申告所得金額         四四五二万六六一六円

(2) 有価証券受贈益の計上漏れ       一九七〇万円

センコウ商事は、太陽生コンクリートから、昭和六二年七月一五日、本件株式一〇万株を一株あたり七〇〇円で相対取引により取得した。

本件株式については、東京証券取引所が公表した同日の最終株価である一株八九七円をもって時価とすべきであるから、前同様に、一株あたりの差額一九七円、総額一九七〇万円を所得金額に加算する。

(3) 所得金額           六四二二万六六一六円

(4) 課税留保金額         一〇三四万七〇〇〇円

(5) 同金額に係る税額        一〇三万四七〇〇円

(二) 昭和六三年八月期に係る本件処分の根拠及び適法性

金沢税務署長が認定したセンコウ商事の昭和六三年八月期の所得金額は一億〇一四三万四四二二円である。(▲は欠損金額であることを示す)

(1) 申告所得金額        ▲九八一七万二二〇一円

(2) 有価証券譲渡益の計上漏れ     二億二〇〇〇万円

センコウ商事は、セントラル航業に対し、昭和六二年九月一六日(被告らの調査では同月二一日)、本件株式一一〇万株を一株あたり一一〇〇円で相対取引により譲渡したとしているところ、東京証券取引所が公表した同日の最終株価一三〇〇円との差額は、法二二条二項に規定する「無償による資産の譲受け」を受けたものとして、一株あたりの差額二〇〇円、総額二億二〇〇〇万円を所得金額に加算する。

(3) 寄付金の損金不算入額   二億一八七一万二一一二円

(2)で述べたとおり、有価証券譲渡益二億二〇〇〇万円は、センコウ商事からセントラル航業に贈与されたもので、寄付金である。したがって、前記(1)の金額に、前記(2)の金額を加算した上、後記(4)ないし(6)の金額を減算した金額に基づき、寄付金の損金不算入額を計算すると二億一八七一万二一一二円となるから、この金額を所得金額に加算する。

(4) 有価証券譲渡原価の過少計上  一六七四万一四八九円

センコウ商事は、セントラル航業に対する本件株式一一〇万株の譲渡原価として、一〇億四八三〇万円を計上しているが、太陽生コンクリートから取得した本件株式一〇万株については、時価により取得したものであるから、総平均法による減価法に基づいて右一一〇万株の譲渡原価の額を計算すると、一〇億六五〇四万一四八九円となる。したがって、センコウ商事は、右計算額と計上額との差額一六七四万一四八九円を過少計上していることとなるから、右金額を所得金額から減算する。

(5) 寄付金の損金計上漏れ       二億二〇〇〇万円

(6) 事業税の認容          二三六万四〇〇〇円

本件処分にともない、納付すべき事業税額が増加するため、この額を所得金額から減算する。

(7) 所得金額         一億〇一四三万四四二二円

(三) 通則法六五条四項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、センコウ商事に正当な理由があるとは認められないから、本件処分により新たに納付すべき法人税の税額、昭和六二年八月期八五五万円及び昭和六三年八月期四一四五万円に、同条一項及び二項を適用して計算した昭和六二年八月期八五万五〇〇〇円及び昭和六三年八月期六一九万二五〇〇円を過少申告加算税として賦課決定した。

3 セントラル開発

(一) 昭和六二年八月期に係る本件処分の根拠及び適法性

金沢税務署長が認定したセントラル開発の昭和六二年八月期の所得金額は三九六四万五八四九円である。

(1) 申告所得金額         一九六四万五八四九円

(2) 有価証券受贈益の計上漏れ       二〇〇〇万円

セントラル開発は、デントレーディングから、昭和六二年七月一六日、本件株式一〇万株を一株あたり六五〇円で、相対取引により取得した。

右株式については、東京証券取引所が公表した同日の最終株価である一株八五〇円をもって時価とすべきであるから、前同様に、一株あたりの差額二〇〇円、総額二〇〇〇万円を所得金額に加算する。

(3) 所得金額           三九六四万五八四九円

(4) 課税留保金額          五七〇万六〇〇〇円

(5) 同金額に係る税額         五七万〇六〇〇円

(二) 昭和六三年八月期に係る本件処分の根拠及び適法性

金沢税務署長が認定したセントラル開発の昭和六三年八月期の所得金額は二億三六七四万三〇四五円である。

(1) 申告所得金額         四二一六万九七二六円

(2) 有価証券譲渡益の計上漏れ     二億二〇〇〇万円

セントラル開発は、セントラル航業に対し、昭和六二年九月一六日、本件株式一一〇万株を一株あたり一一〇〇円で、相対取引により譲渡した。

右株式については、東京証券取引所が公表した同日の最終株価である一株一三〇〇円をもって時価とすべきであるから、前同様に、一株あたりの差額二〇〇円、総額二億二〇〇〇万円を所得金額に加算する。

(3) 寄付金の損金不算入額   二億一六九七万二三一九円

(2)で述べたとおり、有価証券譲渡益二億二〇〇〇万円は、セントラル開発からセントラル航業に贈与されたものであるから、寄付金である。したがって、前記(1)の金額に、前記(2)の金額を加算した上、後記(4)ないし(6)の金額を減算した金額に基づき、寄付金の損金不算入額を計算すると、二億一六九七万二三一九円となるから、この金額を所得金額に加算する。

(4) 有価証券譲渡原価の過少計上      二〇〇〇万円

セントラル開発は、セントラル航業に対する本件株式一一〇万株の譲渡原価として、九億二九六一万三三九二円を計上しているが、デントレーディングから取得した本件株式一〇万株については、時価により取得したものであるから、法三〇条一項の規定に従い、総平均法による原価法に基づいて右一一〇万株の譲渡原価の額を計算すると、九億四九六一万三三九二円となる。

したがって、右計算額と計上額との差額二〇〇〇万円を過少計上していることとなるから、右金額を所得金額から減算する。

(5) 寄付金の損金計上漏れ       二億二〇〇〇万円

(6) 事業税の認容              二四〇万円

本件処分にともない、納付すべき事業税額が増加するため、この額を所得金額から減算する。

(7) 所得金額         二億三六七四万三〇四五円

(8) 課税留保金額及びその税額           〇円

(三) 通則法六五条四項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、セントラル開発に正当な理由があるとは認められないから、本件処分により新たに納付すべき法人税の税額、昭和六二年八月期八九七万円及び昭和六三年八月期八一〇二万円に、同条一項及び二項を適用して計算した昭和六二年八月期一〇〇万二〇〇〇円及び昭和六三年八月期一一三七万四〇〇〇円を過少申告加算税として賦課決定した。

4 太陽生コンクリート

(一) 昭和六三年三月期に係る本件処分の根拠及び適法性

松任税務署長が認定した太陽生コンクリートの昭和六三年三月期の所得金額は〇円(繰越欠損金控除前の所得金額二八一三万五〇六三円)である。

(1) 申告所得金額                 〇円

(2) 有価証券譲渡益の計上漏れ       一九七〇万円

太陽生コンクリートは、センコウ商事に対し、昭和六二年七月一五日、本件株式を、一株あたり七〇〇円で、一〇万株を相対取引で譲渡した。

右株式については、東京証券取引所が公表した同日の最終株価である一株八九七円をもって時価とすべきであるから、前同様に、一株あたりの差額一九七円、総額一九七〇万円を所得金額に加算する。

(3) 寄付金の損金不算入額     一九四五万三七五〇円

(2)で述べたとおり、有価証券譲渡益一九七〇万円は、太陽生コンクリートからセンコウ商事に贈与されたものであるから、寄付金である。したがって、前記(1)の金額に、前記(2)の金額を加算した上、後記(4)の金額を減算した金額に基づき、寄付金の損金不算入額を計算すると、一九五三万八六六八円となるから、確定申告書の損金不算入額八万四九一八円との差額一九四五万三七五〇円を所得金額に加算する。

(4) 寄付金の損金計上漏れ         一九七〇万円

(5) 繰越欠損金当期控除額     一九四五万三七五〇円

法五七条の規定により、繰越欠損金の当期控除額として一九四五万三七五〇円を減算する。

(6) 所得金額                   〇円

(二) 平成元年三月期に係る本件処分の根拠及び適法性

松任税務署長が認定した太陽生コンクリートの平成元年三月期の所得金額は一九九七万三三六〇円である。

(1) 申告所得金額           五一万九六一〇円

(2) 繰越欠損金当期控除額過大   一九四五万三七五〇円

太陽生コンクリートは、繰越欠損金当期控除額として五一二一万八八七二円を所得金額から減算しているが、繰越決算金のうち一九四五万三七五〇円については、昭和六三年三月期において控除しており、前期からの繰越欠損金の額は三一七六万五一二二円であるから、繰越欠損金当期控除額は三一七六万五一二二円である。したがって、確定申告における繰越欠損金当期控除額は、一九四五万三七五〇円過大である。

(3) 所得金額           一九九七万三三六〇円

(4) 課税留保金額             一九八九万円

(5) 同金額に係る税額        一九八万九〇〇〇円

(三) 通則法六五条四項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、太陽生コンクリートに正当な理由があるとは認められないから、平成元年三月期に係る本件処分により新たに納付すべき法人税の税額六〇六万円に、同条一項及び二項を適用して計算される七六万二五〇〇円を過少申告加算税として賦課決定した。

5 デントレーディング

(一) 本件処分の根拠及び適法性

京橋税務署長が認定したデントレーディングの本件係争年度の所得金額は一一一九万〇〇四二円であり、その実際の所得金額は一一三七万六九九九円である。

(1) 申告所得金額                 〇円

(2) 有価証券譲渡益の計上漏れ       二〇〇〇万円

デントレーディングは、セントラル開発に対し、昭和六二年七月一六日、本件株式一〇万株を一株あたり六五〇円で相対取引で譲渡した。

右株式については、東京証券取引所が公表した同日の最終株価である一株八五〇円をもって時価とすべきであるから、前同様に、一株あたりの差額二〇〇円、総額二〇〇〇万円を所得金額に加算する。

(3) 寄付金の損金不算入漏れ    一九六三万五五一九円

前期(2)で述べたとおり、有価証券譲渡益二〇〇〇万円は、デントレーディングからセントラル開発に贈与されたものであるから、寄付金となる。

前期(1)の金額に、前記(2)及び後記(4)の金額を加算した上、後記(5)及び(6)の金額を減算した金額に基づき、寄付金の損金不算入額を計算すると、セントラル開発の本件係争年度における寄付金の損金不算入額は一九六三万五五一九円となるから、この金額を所得金額に加算する。

(4) 交際費損金不算入額        一八万九三二三円

昭和六三年三月期のデントレーディングの資本金の額は二〇〇〇万円であるから、昭和六三年法律第四号による改正前の租税特別措置法六二条一項の規定による交際費の損金算入限度額は三〇〇万円である。これに対してデントレーディングは三一八万九三二三円を交際費勘定に計上しその全額を損金に算入したため、その差である一八万九三二三円を損金に算入できないものとして所得金額に加算する。

(5) 寄付金の損金計上漏れ         二〇〇〇万円

(6) 繰越欠損金当期控除額      八四四万七八四三円

デントレーディングの前期からの繰越欠損金の額は一五九〇万八一三三円であり、本件係争年度の繰越欠損金控除前の所得金額は二七二八万五一三二円であるから、法五七条の規定により、繰越欠損金の当期控除額として減算できる金額は一五九〇万八一三三円である。したがって、デントレーディングが、確定申告において繰越欠損金当期控除額とした七四六万〇二九〇円と右繰越欠損金の額一五九〇万八一三三円との差額八四四万七八四三円を所得金額から減算する。

(7) 所得金額           一一三七万六九九九円

(二) 通則法六五条四項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、デントレーディングに正当な理由があるとは認められないから、本件処分により新たに納付すべき法人税の税額三四四万円に、同条一項及び二項を適用して計算した四九万一〇〇〇円を過少申告加算税として賦課決定した。

四 被告らの主張に対する原告らの認否

各申告所得金額については認め、その余は争う。

五 原告らの主張―本件各処分の具体的な違法性について

1 本件株式取引の実態について

本件株式は、セントラル航業がその企業戦略としてアジア航測の株式を取得してその支配に影響を及ぼすことを目的とするいわゆるM&A(merger and acquisition企業の合併・買収)の過程で取得したものである。本件相対取引を含む、原告ら、山田物産ら関連各社及び個人間の株取引(以下「本件各取引」という)は、このようにしていったん取得した株式を実体関係にあわせてセントラル航業の名義に移す過程にほかならず、実質上譲渡譲受行為は存在しない。すなわち、

(一) セントラル航業をはじめとする原告らを含む関連各社(以下「原告ら関連各社」という)は、いずれも山田辰郎によって設立され、その意思によって企業としての方針が決定され運営されている。セントラル航業はこの企業グループ(セントラルグループ)の中核企業である。

(二) セントラル航業は、昭和六二年当初から技術の開発力を獲得するために同業他社との業務提携ないし技術提携が必要であり、アジア航測がそのためのいわゆるターゲットとして適切であると判断して、その実現のために本件株式を取得してM&Aを試みた。したがって、右取得の目的は企業支配にあり株の売買譲渡益を求める意思はなかった。

本件株式取得に際して原告ら関連各社名義による購入という方法を採ったのは、その意図を秘匿しておくこと、単一人が短期間に大量に特定の銘柄の株式を市場を通じて購入することを制限する趣旨の大蔵省の当時の行政指導によりセントラル航業一社による大量購入は困難であったことなどの事情による。

そして、昭和六二年九月二六日までに四〇九万一〇〇〇株(セントラル航業名義一二〇万一〇〇〇株、センコウ商事名義一一〇万株、セントラル開発名義一一〇万株、山田物産二一万株、訴外セントラル石油株式会社―以下「セントラル石油」という―名義二八万株及び訴外株式会社山田組―以下「山田組」という―名義二〇万株)を取得し、その後本来の目的であるM&A達成を目指してアジア航測の定時株主総会における株主議決権を行使するため、実質上の取得者であるセントラル航業にその名義を集中することとした。その際には株式の名義書換と経理処理が行われたに過ぎず、金銭の交付や株券の引渡はまったく行われていない。

(三) 本件株式の取得は、すべてセントラル航業代表取締役である山田辰郎の判断と指示によって行われ、取得の資金も最終的にはすべてセントラル航業が負担し、株券の保管や名義書換の手続もすべてセントラル航業が行った。一方、その余の原告ら関連各社は右取得に関与せず、株取得の資金及び取得についてのリスクの負担もせず、また本件株式についての処分権も有しなかった。

昭和六三年九月二六日の時点で、セントラル航業は五一三万三〇〇〇株を取得したが、最終的にM&Aは成功しなかった。しかし、この間現在に至るまでセントラル航業は売却益を追求して本件株式を処分したことはない。

(四) したがって、セントラル航業を除くその余の原告ら関連各社は法一一条にいう「単なる名義人」であって、本件株式の取得には関与していないのであるから、同規定の実質所得者課税の原則に照らして、真実の法律関係に基づいて課税関係を律すべきである。

2 本件相対取引の対価について

(一) 本件相対取引が税法上存在するものとされても、その対価は適正であった。

譲渡益の取得を目的とする投機の場合と異なり、企業支配を目的とする株式取得の局面においては取引所価格がそのまま客観的な価格として妥当するものではないし、相対取引における価格は当事者の自由な意思によって決定されるべきものであるから株式の評価が取引所価格と異なる場合があって当然であるのみならず、本件相対取引の価格を取引所価格の約二〇〇円引きとしたのは証券会社四社の一致した助言によるものであり、本件株式の取引所価格が企業実勢を離れて異常な高値になっており、このような株価の急激な下落を避けるためには市場取引でなく相対取引とすることが必要であったという状況のもとでは、客観的にも妥当な価格(時価)であった。

(二) 仮に、本件相対取引の対価が客観的に妥当な価格(時価)でないとしても、本件相対取引には時価によらないことが合理的と認められる特段の事情があった。

すなわち、〈1〉本件は、セントラル航業がM&A目的でセントラル航業を除く原告ら関連各社の名義を借用しての株取得であり、相対取引は必然であったこと、〈2〉相対取引にあたって、証券会社四社から一様に二〇〇円引きにしたらよいと助言があり、他に特別の判断資料をもたない原告らがこれに従ったものであること、〈3〉原告らが相対取引で取引所価格からの二〇〇円引きとしたのは、取引所価格が一般に客観的な交換価値を反映していないという証券市場の実態のもとで、本件株式の価格が企業実勢と著しくかけはなれていることから、企業実勢に近付けるための選択であり、それが客観的にも妥当な価格であると判断されたことによること、〈4〉M&A目的の株取得に際し、セントラル航業の支出を可能なかぎり低く押さえることは、経営者としてむしろ当然であったこと、である。

(三) 相対取引価格が取引所価格より低額であることを知りながら、国税当局が課税していない実例について

平成五年一月、株式会社東海銀行、日本生命相互保険会社他二四社が、秀和株式会社から、相対取引により株式会社松坂屋の株式を一株あたり九一〇円で買い受け、当時その取引所価格が一〇六〇円ないし一一三〇円であったところ、その差額に対しては本件のような課税がなされていない。

3 法二二条二項について

(一) 法二二条二項の性格

法二二条二項の規定は、法の全体的な構成からみて、法人税の課税標準となる各事業年度の所得を計算するための原則的、訓示的、一般的、包括的規定である。したがって、この規定は課税処分のための直接の根拠規定となり得ない。

(二) 無償による資産の譲渡と収益の発生

「収益」という用語は通常会計学上用いられるものであって、企業会計において、一会計期間の損益を確定するために、その会計期間の収益と費用を対応させて、その差額をもって「期間損益」と認識する。法は収益についての別段の定義規定を設けていないので、商人の利益を計算する一般法たる商法の計算規定に拠ることになる。

商法三二条二項が規定する「公正ナル会計慣行」とは、企業会計審議会が定めた「企業会計原則」(昭和二四年七月九日、最終改正昭和五七年四月二〇日)や「株式会社の貸借対照表・損益計算書・営業報告書及び附属明細書に関する規則」(昭和三八年三月三〇日は法務省令三一号)等に集約されたものとほぼ同一であると解されているが、それらのいずれにも「無償による資産の譲渡」が企業会計上の収益を構成する旨の表現はない。むしろ、「企業会計原則」の「第二損益計算書原則」の一(損益計算書の本質)のA項には、「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるよう処理しなければならない。」と定められ、無償による譲渡のように収入を伴わないものを収益に計上してはならないことを示している。

このように、会計学において「無償による資産の譲渡又は役務の提供」から収益が生ずるという考え方は皆無である。なぜならば、無償による資産の譲渡は当該譲渡をした法人の損失になることはあっても利益となることはないからである。

(三) 低額譲渡を有償譲渡契約と贈与契約に分解して認定することの誤り

セントラル航業を除く原告らに各法人税確定申告書記載のとおり株式の売買が存在したとしても、これを低額譲渡と認定し、当該契約を否認して、これを取引日の証券取引所の終値による売買契約と、それを下まわる部分についての贈与契約に分解して課税することはできない。

(1) そもそも「資産の無償譲渡」という私法上単一の贈与契約を否認し、これを「時価による有償譲渡」と譲渡の対価相当額の「現金の贈与契約」とみなすべき法の規定は存在しないから、無償譲渡にかかる資産をいったん時価で譲渡し、譲渡人がその対価相当額を譲受人に贈与したのと同一の経済的効果をもつものであるとして課税することはできない。

(2) 低額譲渡について

法二二条二項には、無償による資産の譲渡又は役務の提供に係る文言はあっても、低額による資産の譲渡は時価による譲渡とみなして課税する旨の文言は存在しない。時価との差額について、当事者がこれを相手方に贈与する意思をもって低額譲渡の契約をした場合には、一種の仮装行為であって、法律の別段の定めをまたずともその仮装したところを否認して課税することができるとしても、本件におけるセントラル航業とその余の原告ら間との取引は、主観的にも贈与の意思はなく、客観的にも相対取引と市場価格との乖離はさほど大きなものでなくかつ合理的であったから、それ自体当事者間の適法な私法上の取引であって、これを前提に課税すべきである。

(四) 所得税法との対比

一般に、所得課税において、収益のないところに収益を擬制してこれに課税する場合には明確な法律の根拠が必要である。

所得税法では、譲渡所得等の計算において現実には所得が発生していないのに所得が発生したものとみなして課税する場合について、同法五九条に贈与等の場合の譲渡所得等の特例をおいている。すなわち、右規定は、明文をもって、無償若しくは著しく低い対価をもって資産の譲渡があった場合において、これを時価で譲渡したものと「みなす」旨を定めており、このような個別的・具体的規定があってはじめて時価による譲渡があったものとして課税することができる。

したがって、このような規定を欠いた法によって、無償譲渡または低額譲渡について時価によって譲渡があったものとして課税処分をすることはできない。

六 原告らの主張に対する被告らの反論・主張

1 五1の主張について

(一) 否認する。ただし、昭和六二年七月以降本件株式取得の目的にM&Aが付け加わったことは認める。

原告らは、本件株式について、原告ら個々の取引として証券会社に発注しその代金等を支払い、原告ら個々の資産取得として帳簿処理を行い、また、取得資金の金利を負担し、譲渡代金をもって当該株式取得のための借入金のほか他の用途の借入金の返済等に充てており、その取得から譲渡に至るまでの間帰属に争いのない他の株式との同様の管理がされているから、原告らの本件株式の取得はセントラル航業の行為ではなく、したがって原告ら間の本件株式の取引は原告らそれぞれが自己の計算と責任において行った経済取引である。

(二) その他の反論

(1) 原告ら関連各社名義を使用する必要性について

本件においては、原告ら関連各社は本件株式の売買によって現実に利益を獲得しているから、セントラル航業における原告ら関連各社名義使用の必要性とは何ら関係なく、原告ら関連各社は各自の利益獲得のために本件株式を取得したというべきである。

(2) 原告ら関連各社が買付に関与していないとの点について

株式売買については、本件株式は他の銘柄の株式と同様に、証券会社への発注、取引の記帳、売買損益の計算等が行われ、株式売買に係る資金は別勘定の預金通帳で管理されていた。

(3) 原告ら関連各社には株式取得に伴うリスクの負担、買付資金の負担や取得株式の処分権がなかったとの点について

本件株式取得にあたっては、これが値下がりする見通しはなかったから、リスクを負担しなかったことを有意のものとみることはできない。

原告ら関連各社のうちには、セントラル航業から買付資金を取得したものがあるけれども、そのことから直ちにセントラル航業が買付資金を負担したことにはならない。

原告ら関連各社のうちでは、山田物産が、昭和六二年五月一八日に取得した本件株式を、同年六月一七日証券市場において売却して一六六万二九九〇円の譲渡益を得、自己の資金とした例がある。

(4) 相対取引は名義書換や経理処理のみで行われたとの点について

原告ら関連各社のうちセントラル開発及びセンコウ商事は、セントラル航業との相対取引によって取得した資金の一部を、それぞれの事業資金として現に運用している。

2 五2の主張について

(一) 本件株式の時価について

時価とは、当該譲渡の時における時価、すなわち、自由市場において市場の事情に十分通じ、かつ、特別の動機を持たない多数の売手と買手が存在する場合に成立すると認められる客観的交換価値(市場価格)であると解すべきである。

上場株式についてその価額形成は、単に企業実勢のみに基づくものではなく、他の要因(例えば、需要と供給のバランスや、今後の企業の情勢等)をも加味された上で、流通を目的としてなされるものであるから、市場価格は流動的であって、譲渡性を有する株式の取引が公正な価額により円滑且つ迅速に行われるための流通機構として証券取引所及びその開設する有価証券市場が存在している目的からみて、特段の事情が存しない限り、当該株式譲渡がなされた当日における証券取引所の公表価格(取引所価格)をもってその時価であると解すべきところ、本件株式については、東京証券取引所第二部に上場されており、また、右「特段の事情」はないから、原告ら間での本件株式の譲渡がされた当日における取引所価格をもってその時価と解すべきである。

原告らが主張する相対取引の価格(取引所価格からおおむね二〇〇円を差し引いた金額)自体には、合理的根拠がなく右相対取引価格は、原告ら間におけるいわゆる「自己の評価額」にすぎず、右相対取引価格をもって「時価」とみることはできない。

(二) 右特段の事情の存否について

次の点を考え合わせれば、取引所価格と異なる価格をもって「時価」とする特殊事情も存しないし、本件相対取引の価格として客観的交換価値(市場価格)を採用しないこととする合理的事情があったということはできない。

(1) 本件相対取引は、セントラルグループ会社間で行われたものであり、同族会社である原告ら関連各社の最高意思決定機関はいずれも山田辰郎自身であることから、各会社間の取決めとはいっても山田辰郎の思わくのみによって決められることになるから、相対取引価格として適正な算定が行われたかどうか、合理性に疑問がある。

(2) 大量の売注文をすれば市場価格が下落するとしても、反面、大量の買注文をすれば株価が上昇することも考えられるから、大量売却による低価主張は一般論であり、現実に証券市場で売却がされてはいない以上、仮定的なものである右主張の意味はない。

(3) 取引所価格の二〇〇円引きの価額は、前述のとおり時価として経済的な合理性を有する客観的交換価値を表しているとはいいがたい。

(4) 仮に、右二〇〇円引きについて、一部の証券会社の者がこれを是とする見解を示したとしても、取引所価格からどういう根拠で二〇〇円が差し引かれるのかも明確でないし、これが時価として一般に認識されたものとはいいがたく、二〇〇円引き自体が恣意的である。

(5) 相対取引の価格がすなわち「時価」であるとすれば、例えば、二〇〇円引きする取引と、一〇〇円引きあるいは三〇〇円引きする取引とがあった場合、それぞれ、二〇〇円引きの価格、一〇〇円引きあるいは三〇〇円引きの価格が、すなわち「時価」ということになるが、それでは課税関係において負担の公平が妨げられる結果をもたらすことになり、このことからしても各当事者が自由に決めた相対取引の価格がすなわち「時価」とはいえない。

(三) 私的取引の自由と相対取引

無償譲渡または低額譲渡の場合、外部からの経済的な価値の流入がないことのみをもって値上がり益として顕在化する利益に対して課税されないということでは税負担の公平が図られない。私法上自由取引が原則で相対価格も自由に決定できることと、課税関係が発生することとは別問題である。法二二条二項の規定の趣旨からしても、取引価格が時価より著しく低いか否かを問わず時価との差額を課税対象とすべきである。

(四) 本件相対取引の価格と時価との差額について

相対取引の価格が「時価」としての合理性を有しないことは、前述のとおりであり、本件相対取引による時価との差額は一般的にみても多額で、正常な対価で取引された経済的にみて合理的な取引とは到底いいがたい恣意的な取引である。

(五) 松阪屋株の件について

原告ら主張の事案は、本件とは事案を異にする。

秀和株式会社と株式会社松阪屋の株主との間の取引は対立した第三者間の取引であること、その取引の量は発行済み株式総数の一七パーセントに相当しかつ二六四六万四〇〇〇株と大量であり、これを市場を通じて一時に売却すれば、証券取引所の取引価格が著しく低下することは疑いないと思われること、右事態は秀和株式会社にとって不利であり、他方、株式会社松阪屋にとっても低廉な価格で市場に放出されてから買い取ることは得策とはいえず、また、自社の株価の安定維持を図る必要があり、そのため自社の安定株主に松阪屋の株式を保有させようという意向があったこと、直前(平成五年一月二八日)の取引所価格は、安値一〇四〇円、高値一一一〇円、終値一一一〇円であり、取引価格との乖離は二〇〇円(終値)であったが、その六日前にその年の最安値九一〇円をつけており、また、取引の翌日である一月三〇日の公表価格は終値一〇〇〇円であり、取引価格との乖離は九〇円であったことなどの事実を指摘できるところ、以上の事実を総合すれば、この事案は両当事者間に基本的に市場における需要と供給の競争原理が働いており、両当事者のせめぎあいの中から適正な取引価格が決定されたといえるから、低廉譲渡にあたるとする必要はない。

これと異なり、本件にあっては、原告ら関連各社はいわば山田辰郎のワンマン会社で基本的に利害が共通し、山田辰郎がその一存で市場取引から見て何ら経済的合理性のない、むしろ恣意的ともいえる任意の低い価格で取引したのであるから、低廉譲渡と言うべきである。

3 五3の主張について

(一) 法二二条二項の適用

益金の額となる当該事業年度の収益の額には資産の無償譲渡に係る収益の額も明文上含まれる。

また、企業会計原則においては「無償による資産の譲渡」(低額譲渡も含む)の場合、当該資産の時価相当額を収益に計上しても同額の経費を計上することになり、損益の額に影響しないので、無償譲渡による収益発生について明示されていないものと解される。

(二) 無償譲渡等についての法上の取扱い

資産の無償譲渡等による収益も益金の額に算入することを法が明らかにしたのは、法人が他の者と取引を行う場合には、すべて資産は時価によって取引されるものとして課税所得を計算するという原則的な考え方からくるものである。そこで、法二二条二項が、資産の譲渡に係る収益を益金として課税の対象としているのは、法人の資産が売買、交換等によりその支配外に流出したのを契機として、顕在化した資産の値上り益の担税力に着目し、清算課税しようとする趣旨であるから、課税の対象となる収益の額は、譲渡対価の有無やその多寡にかかわりなく、当該資産が譲渡された当時の時価相当額をもって算定すべきものとされている。

すなわち、法は、資産の無償譲渡があった場合には、法人が資産をいったん時価をもって有償譲渡し、これにより受け取った金銭を贈与等(支出科目は、相手に与える内容により、寄附金、交際費、広告費、給与、報酬等に区分される)したことと経済的効果においてなんら異なるところがないので、その資産の時価に相当する譲渡収益を認識し、これを益金の額に算入するとともに(法二二条二項)、当該時価相当額を相手方に対する贈与等(寄附金等)として取り扱う(法三七条六項、三四条二項、三五条四項)こととしている。

(三) 低額譲渡について

法二二条二項の「有償又は無償による資産の譲渡」には、いわゆる低額譲渡も含まれ、この場合の益金の額に算入すべき収益の額は、その資産の譲渡の対価の額のほか、当該対価の額と当該資産の譲渡の時における時価との差額に相当する金額も含まれる。

課税関係は当事者間の贈与の意思、混合契約の意思のみによるのではなく、私法上許された一個の外観的法律行為の形式の全部ないし、一部が真の法的経済的意図と合致していない場合には、その結果に対して課税し得ると解すべきである。

(四) 所得税法の「みなし譲渡の規定」との関係

法と所得税法とは、対象とする租税の性質、目的が自ら異なり、法に所得税法五九条の規定のごとく「みなす規定」が存在しないからといって、法において資産の無償譲渡(低額譲渡)が益金を構成しないことにはならない。

すなわち、所得税法は、同法三三条一項で譲渡所得の基因となる「資産の譲渡」を規定しているが、当該収入金額については、同法三六条一項で「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする」と規定していることから、資産の無償譲渡等の場合には対価がなく「収入すべき金額」がないこととなるので、「みなし譲渡」を明確にするため、資産の無償譲渡及び低廉譲渡のうち特定の譲渡があった場合には、同法五九条により収入金額を時価により計算することとしたものである。つまり、所得税法における譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであるから、その課税所得たる譲渡所得の発生には、必ずしも当該資産の譲渡が有償であることを要しない。したがって、同法三三条一項にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為をいうものと解すべきであることから、そのため同法五九条が譲渡所得の総収入金額の計算に関する特例として規定されている。

これに対し法では、「益金」概念が広く解釈にゆだねられ、シャウプ勧告以前からつとに法の益金概念上当然のこととして同様の所得計算上の考え方をとっており、実務上長い歴史を持っていたので特に明文化するまでにいたらなかったのであり、昭和四〇年の法の全文改正に際し、法二二条二項において益金の額に算入すべき収入の額の例示として「無償による資産の譲渡」を掲げ、規定の整備、明文化が行われた。つまり、法二二条二項は、前述のとおり資産の無償譲渡(低額譲渡)について、時価として顕在化した経済的価値を収益として益金に算入し課税すべきものとした趣旨の規定であり、所得税法五九条のような「みなす規定」は法には必要がない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一 請求原因1(原処分)及び以下の各事実は当事者間に争いがないか、または証拠〈証拠略〉によってたやすく認めることができる。(なお、書証の成立については別紙記載のとおりである)

1 原告らの概要

(一) セントラル航業

昭和四一年二月四日に設立され、代表取締役は山田辰郎、本店所在地は石川県金沢市泉が丘二丁目一五番一号、資本金二億円の同族会社である。

本件係争年度当時測量業を営み、年商は一五億から一六億円、株主は山田辰郎を中心とした同族関係者が占め、セントラルグループ会社の中核をなす企業で、意思決定は代表取締役の山田辰郎が握っていたいわゆるワンマン会社である。

山田辰郎は、以下の原告ら及び訴外関連会社の意思決定権をすべて掌握している。

(二) センコウ商事

昭和五三年九月一三日に設立され、代表取締役及び本店所在地はセントラル航業と同一で、資本金五〇〇万円の同族会社である。

本件係争年度当時測量機器等の販売業を営み、年商は一億円前後、グループ会社の物資調達会社として機能していた営業実態のある会社である。

株主は山田辰郎を中心とした同族関係者が占めている。

(三) セントラル開発

昭和五一年一〇月二二日に設立され、代表取締役及び本店所在地はセントラル航業と同一で、資本金二四〇〇万円の同族会社である。

本件係争年度当時運送業、不動産取引業を営み、年商は一億から二億円前後で、グループ会社の不動産部門を担当していた営業実態のある会社である。

株主は山田辰郎を中心とした同族関係者が占めている。

(四) 太陽生コンクリート

昭和四六年二月四日に設立され、代表取締役はセントラル航業と同一で、本店所在地は石川県松任市木津町一一〇五番地、資産金五〇〇〇万円の同族会社である。

本件係争年度当時生コンクリート製造業を営み、年商は一〇億円前後、山田組が使用する生コンクリートの製造、販売を担当していた営業実態のある会社である。

株主は山田辰郎及びその同族関係者とグループ会社の山田物産が占めている。

(五) デントレーディング

昭和四五年九月五日に設立され、代表取締役はセントラル航業と同一で、資産金三〇〇万円、本店所在地は当初石川県金沢市泉野町二丁目六番二〇号、昭和四七年七月一日、東京都中央区銀座三丁目一四番八号に変更し、平成二年九月一七日、東京都千代田区神田東松下町四六番地三に移転した。

本件係争年度当時食肉加工機等の輸入、販売業を営み、年商は三億から四億円前後、当初セントラル航業の輸入部門として設立された、食品関係の機械等の輸入、販売を主体にした営業実態のある会社である。

株主はグループ会社の山田物産一社が占めている。

2 本件株式の売買に関与した訴外関連各社

(一) 山田物産

昭和五〇年六月六日に設立され、代表取締役及び本店所在地はセントラル航業と同一で、資本金一〇〇〇万円の同族会社である。

本件係争年度当時土木建設資材等の販売業を営み、年商は一五億から一六億円前後、当初各グループ会社の事業が発展し増資が続いたことからグループ会社の持株会社として設立され、具体的な事業としては生コンクリート及び建設資材の販売、石油スタンドを営んでいた営業実態のある会社である。

株主は山田辰郎を中心とした同族関係者が占めている。

(二) 山田組

昭和四二年五月一〇日に設立され、代表取締役及び本店所在地はセントラル航業と同一で、資本金二〇〇〇万円の同族会社で、山田辰郎の事業の出発点として設立された会社である。

本件係争年度当時土木建築業を営み、年商は二億円前後、営業実態のある会社である。

株主は山田辰郎を中心とした同族関係者が占めている。

(三) セントラル石油

昭和五九年九月一日に設立され、代表取締役及び本店所在地はセントラル航業と同一で、資本金一〇〇〇万円の同族会社である。

本件係争年度当時石油製品の卸売及び小売業を営み、年商は八〇〇〇万円前後、当初石油を主とした卸商社として設立された営業実態のある会社である。

同社は、その後山田物産に合併されているが、当時の株主は、グループ会社の山田物産一社が占めていた。

3 原告ら各社の本件株式以外の株式取引

原告ら各社は、それぞれ本件株式の購入の前後に証券会社を介して証券市場を通じた市場価格で本件株式以外の銘柄の株式を取得し、さらにこれを譲渡して多額の譲渡益を得ていた。

4 本件株式の売買の事実関係

ちなみに、以下の取得の当時におけるアジア航測の発行済み株式総数は一五一八万株である。

(一) 昭和六一年までの取得状況

山田辰郎名義で、昭和五一年一二月八日から昭和六〇年一一月二〇日までの間に、本件株式一万二〇〇〇株(無償増資等を含む)を合計金額一五〇万六六二五円で、昭和六一年八月一二日から同年一一月一七日までの間に三万八〇〇〇株を合計金額二五六九万七七八八円で、それぞれ取得した。

セントラル航業名義で、昭和六一年七月三一日から同年八月二日までの間に、五万株を合計金額三七三四万七三七五円で取得した。

(二) 昭和六二年六月までの取得状況

次のとおりセントラル航業はじめ原告ら関連各社及び個人(八社二個人)名義で、昭和六二年三月七日から同年六月三〇日までの間に、おおむね一〇万株又は五万株ずつ順次購入し、購入株式数の総合計は一三四万三〇〇〇株で、要した金額は合計八億三四六四万一二七三円である。

(1) セントラル航業(合計二五万株、総額一億六一七三万三七九七円)

四月七日から同月一五日までの間に、五万株(二七七七万〇二一五円を要した)

五月三〇日から六月四日までの間に、一〇万株(六一二四万七〇五四円を要した)

六月二四日から同月二六日までの間に、一〇万株(七二七一万六五二八円を要した)

(2) センコウ商事(合計三九万三〇〇〇株、総額二億七〇七三万五一四〇円)

五月二二日から同月二八日までの間に、一〇万株(五七四三万五三〇二円を要した)

六月一五日から同月二三日までの間に、一〇万株(六五一九万三九九三円を要した)

六月二六日から六月三〇日までの間に、一九万三〇〇〇株(一億四八一〇万五八四五円を要した)

(3) セントラル開発

三月一八日から四月七日までの間に、一〇万株を合計五五五二万三九七五円で取得した。

(4) 太陽生コンクリート

四月二七日から五月八日までの間に、一〇万株を合計五四七三万九〇三〇円で取得した。

(5) デントレーディング

六月四日から同月九日までの間に、一〇万株を合計六二二七万四四四七円で取得した。

(6) 山田物産

五月一一日から同月一九日までの間に、一〇万株を合計五四〇五万八五一三円で取得した。なお、このうち二万株は、証券市場で昭和六二年六月一七日譲渡され、残りは、八万株となっている。

(7) 山田組

五月二八日から同月三〇日までの間に、一〇万株を合計六〇五五万七二八六円で取得した。

(8) セントラル石油

三月七日から同月一三日までの間に、一〇万株を合計五六二一万一五三一円で取得した。

(9) 山田辰郎

四月一五日から同月二五日までの間に、五万株を合計二七六七万一九五〇円で取得した。

(10) 山田智子

六月一〇日から同月一五日までの間に、五万株を合計三一一三万五六〇四円で取得した。

(三) 昭和六二年七月以降の取得状況

以下のとおり、各会社等名義で購入した。

(1) センコウ商事(合計七〇万七〇〇〇株、総額五億九二四一万六五六九円)

七月一日から同月一五日までの間に、相対取引以外で五〇万七〇〇〇株(四億二五一四万〇八四四円を要した)

七月一五日、太陽生コンクリートから、相対取引で一〇万株(七〇〇〇万円を要した)(これが本件相対取引の一である)

七月三一日から八月三〇日までの間に、一〇万株(九七二七万五八一五円を要した)

(2) セントラル開発(合計一〇〇万株、総額八億七四〇八万九四一七円)

七月一五日から同月三〇日までの間に、九〇万株(八億〇九〇八万九四一七円を要した)

七月一六日、デントレーディングから、相対取引で一〇万株(六五〇〇万円を要した)(これが本件相対取引の一である)

(3) 山田物産

七月三日から九月一日までの間に、一三万株(一億〇八七九万六〇八五円を要した)

(4) 山田組の購入

八月七日、一〇万株(一億三五五七万二五〇〇円を要した)(山田智子から証券市場を通じて立会場分売―あらかじめ証券市場外で買い方を探しておき証券市場内で商いを成立させる方法―で取得したもの)

(5) セントラル石油

八月五日及び同月六日で、一八万株(二億二九〇〇万二一一五円を要した)

(6) 山田辰郎

九月九日から同月一八日までの間に、九万九〇〇〇株(一億三〇四一万〇五三五円を要した)

(7) 山田智子

七月三一日から九月一八日までの間に、一四万九〇〇〇株(一億八七八四万〇六五〇円を要した)

(8) 藤原徳治

八月五日及び同月六日、二万一〇〇〇株(二七五七万二四七五円を要した)

(9) セントラル航業(合計三九九万一〇〇〇株、総額五一億七一一四万九四〇〇円)

ア 八月一八日、セントラル石油及び山田組からいずれも、証券市場を通じて立会場分売により、それぞれ二八万株を三億三九七六万〇五一七円、二〇万株を二億四二六八万六〇八三円、合計四八万株を総額五億八二四四万六六〇〇円で取得した。

イ 八月二一日から九月二四日までの間に、証券市場を通じて七一万株を合計一一億七四四三万五〇四五円で取得した。

ウ 九月二一日、山田辰郎及び山田智子からいずれも、証券市場を通じて立会場分売により、それぞれ一八万七〇〇〇株を三億五四四七万五七八一円、九万九〇〇〇株を一億八七六六万三六四九円、合計二八万六〇〇〇株を総額五億四二一三万九四三〇円で取得した。

エ 九月一六日に、相対取引により、センコウ商事、セントラル開発及び山田物産から、それぞれ一一〇万株を一二億一〇〇〇万円、一一〇万株を一二億一〇〇〇万円、二一万株を二億三一〇〇万円、合計二四一万株を総額二六億五一〇〇万円で取得した(これが本件相対取引の一である―ただし、山田物産からの譲渡を除く)。

オ 九月二五日、証券市場を通じて一〇万五〇〇〇株を二億二一一二万八三二五円で取得した。

以上の結果、セントラル航業は、総株式数四二九万一〇〇〇株を、総額五三億七〇二三万〇五七二円で取得したことになるが、4(四)で述べるとおり、その後に昭和六二年九月二二日及び二四日の証券市場を通じた二〇万株の譲渡があるので、昭和六二年九月二五日現在の所有総株式数は、四〇九万一〇〇〇株である。

(四) 本件相対取引を除く本件株式の譲渡状況

(1) セントラル航業は、二〇万株を昭和六二年九月二二日及び二四日に証券市場を通じて市場価格で売却して、三億〇六三二万五四七七円の譲渡益を得た。

(2) 山田物産は、二万株を、昭和六二年六月一七日に証券市場で譲渡し、一六六万二九九〇円の譲渡益を得た。

(3) 山田組は、二〇万株を、昭和六二年八月一八日にセントラル航業へ証券市場を通じて立会場分売で譲渡した。

(4) セントラル石油は、二八万株を、昭和六二年八月一八日にセントラル航業へ証券市場を通じて立会場分売で譲渡した。

(5) 山田辰郎は、一万二〇〇〇株を、昭和六二年九月一四日に証券市場を通じて譲渡し、一三五一万七八七五円の譲渡益を得、一八万七〇〇〇株を、同年九月二一日にセントラル航業へ証券市場を通じて譲渡し、一億六六五八万七二八七円の譲渡益を得た。

(6) 山田智子は、一〇万株を昭和六二年八月七日に山田組へ証券市場を通じて立会場分売で譲渡し、四八三二万六三五一円の譲渡益を得、九万九〇〇〇株を、昭和六二年九月二一日にセントラル航業へ証券市場を通じて立会場分売で譲渡し、五一七六万〇五一五円の譲渡益を得た。

二1 本件株式の実質的な帰属主体について

(一)(1) 本件株式の譲渡について

一4(四)で認定したとおり、原告ら関連各社が本件株式の譲渡をしていることは認められるものの、これをもって直ちに原告ら名義による本件株式の取得の目的が譲渡益の取得であるとはいえない。すなわち、〈証拠略〉によれば、換価に至った右各譲渡は本件株式の市場価格の高騰を防ぐ目的に出たものであることが認められるのであって、このことは、右に認定した譲渡によって原告ら関連各社が手離したと評価できる株式数は二三万二〇〇〇株であり、原告ら関連各社において取得した本件株式の総数四三二万三〇〇〇株のわずか五・四パーセント弱を占めるにすぎないこと及びその譲渡時期に照らして、そのように解する方が合理的であると判断されることによって裏付けられる。

(2) 購入資金の手当について

〈証拠略〉によれば、次の事実が認められる。

ア 昭和六二年六月までの購入資金について

あ セントラル航業

この時期に取得した合計三〇万株の取得資金一億九九〇八万一七七二円には自己資金及び借入金が充てられた。

い センコウ商事

この時期に取得した合計三九万三〇〇〇株の取得資金二億七〇七三万五一四〇円には(約定日昭和六二年五月二二日から六月三〇日の間の取得)、〈1〉昭和六二年五月二六日、自己資金(北陸銀行金沢支店の自己名義普通預金からの振替入金)一〇三一万四五二六円、〈2〉昭和六二年五月二七日から同年六月二九日までの間、竹松証券からの保証金の戻り及び株式譲渡に伴う資金二億二二七九万一六四八円、〈3〉昭和六二年六月一日、セントラル航業からの借入れ二九〇〇万円、〈4〉昭和六二年六月一七日、デントレーディングからの貸付金の戻り二六〇三万六五七五円、〈5〉昭和六二年六月二二日及び同二三日、山田辰郎から借り入れた資金二四七〇万一四九一円、〈6〉昭和六二年六月二四日、山田物産から借り入れた資金五〇一万三三五六円、〈7〉昭和六二年六月三〇日、山田組から借り入れた資金三九二〇万八三九七円が充てられた。

う セントラル開発

昭和六二年三月一八日から四月七日までに取得した合計一〇万株の取得資金五五五二万三九七五円には、このための借入の事実はないことから自己資金が充てられたものと推認される。

え 太陽生コンクリート

昭和六二年四月二七日から五月八日までに取得した合計一〇万株の取得資金五四七三万九〇三〇円には、このための借入の事実はないことから自己資金が充てられたものと推認される。

お デントレーディング

昭和六二年六月四日から同月九日までに取得した合計一〇万株の取得資金六二二七万四四四七円には、昭和六二年六月八日から同月一二日までの間、セントラル航業からの借入金六一八〇万円と自己資金が充てられた。

なお、右セントラル航業からの借入金六一八〇万円に対しては、年利七・五パーセントの利息が支払われ返済された。

イ 昭和六二年七月以降の購入資金について

右アと同様に各社自らが自己の責任と計算において資金の手当をして本件株式の売買を行った。

なお、セントラル航業が北國銀行寺町支店から借り入れた二〇億円の流れは次のとおりである。

あ 昭和六二年七月六日の借入金七億五〇〇〇万円は、利息を差し引かれた七億四〇二九万五一九六円がセントラル航業の北國銀行寺町支店の普通預金口座に入金された。この金員は、〈1〉昭和六二年七月九日、センコウ商事へ四億円、〈2〉昭和六二年七月二一日、セントラル開発へ二億四〇二九万五一九六円、〈3〉昭和六二年七月二一日、センコウ商事へ一億円、それぞれ貸し付けられた。

い 昭和六二年八月一七日の借入金一二億五〇〇〇万円は、利息を差し引かれた一二億三四〇七万五三三三円がセントラル航業の北國銀行寺町支店の普通預金口座に入金された。その金員は、〈1〉昭和六二年八月一七日、セントラル開発へ二億五〇〇〇万円が貸し付けられ、〈2〉昭和六二年八月二一日、五億八二四四万六六〇〇円、〈3〉昭和六二年八月二八日、一億五四〇〇万円、〈4〉昭和六二年九月五日、二億四七四二万八七三三円、それぞれセントラル航業の本件株式の購入資金として使用された。

なお、右セントラル航業から、センコウ商事及びセントラル開発に貸し付けられた資金に対しては、当時のセントラルグループ間の貸借に係る利率であった年利七・五パーセントの利息が適用され、センコウ商事及びセントラル開発はその金利負担をした。

したがって、原告らは、借入金については約定の利息をそれぞれ負担するなど、いずれも自己の責任と計算において資金の手当をして本件株式の売買を行ったものということができる。原告らは本件株式の取得資金は最終的にはいずれもセントラル航業が負担したものであり、右金利の負担も実質的にはなかったとするが、仮にそうであるとしてもそのことから直ちに原告らが自己の計算によって資金の手当をしたことを否定することにはならない。

(3) 株式購入の名義について

〈証拠略〉によれば、株式購入の際の名義は、各会社及び個人名であって、その購入代金及び諸費用は各会社の口座から支払われたことが認められる。

(4) 借入金の会計処理について

〈証拠略〉によれば、原告ら関連各社間の借入金の処理は、本件株式取得の資金としての借入金であっても、他の借入金と同様に、正規の簿記の原則に基づき借入資金は「借入金」として計上し、その借入金に係る金利は「支払利息」として損金に計上し、貸付金は「貸付金」として計上し、その貸付金に係る受取利息は「受取利息」として益金に計上するなどの経理処理がなされ、セントラル航業に対する立替金または貸付金として処理されてはおらず、また、他の借入金と同様にグループ金利や借入先の金利にそって変動する金利が定められていたことが認められる。

(五) 株式株券の管理・保管等について

〈証拠略〉によれば、次の事実が認められる。

原告ら各社ごとに個別の経理担当者が存在し、(従業員の中には複数の会社を担当する者もいたが例外的なものである)、各会社の経理は区別されており、証券会社から送られてくる株式の売買を記載した報告書は、山田物産及びセントラル開発の経理担当者でかつ山田辰郎の秘書でもある古城節子が受け取って写しを作成した後、原本は各会社の経理担当者がそれぞれ責任を持って保管していた。

また、本件株式の株券は、各会社にきた当初はセントラル開発の金庫にも保管されることもあったが、そのほとんどはセントラル航業の金庫に保管され、その後多くの株券は銀行に担保として差し入れられた。

古城節子は、株式を購入名義によって明確に区別して管理し、譲渡益の計算なども各社ごとに行っており、その内容を山田辰郎に随時報告をしていた。

(6) 購入の目的について

原告ら代表者尋問の結果によれば、遅くとも昭和六二年四月以降の本件株式の各会社の取得は、セントラル航業のアジア航測に対するM&Aの目的によるものであったことを認めることができる。

しかしながら、本件株式取得の目的がセントラル航業によるM&Aであるからといってそのことから直ちに本件株式がセントラル航業に帰属することにはならない。すなわち、M&Aは直接にはセントラル航業の利益のみを追求して行われるものであるとしても、間接的に利益を受ける他の関連各社がこれに協力することも当然である(原告らもいうように「原告ら関連企業の中核であるセントラル航業の生き残りをかけた本件アジア航測のM&Aに関連会社が全面的に協力することは当然であ」る)し、セントラルグループ全体として本件株式を確保することができれば足りるわけで、関連各社が名を貸すことにとどまらず株主となることも不合理ではないから、必ずしもセントラル航業が実質的所有者である必要はない(逆に、仮に右目的がM&Aでないとすると投機又は仕手ということになるけれども、この場合にもそうであるからといって直ちに関連各社がそれぞれ取得者となるとはいえないであろう)。

(7) 本件株式売却代金の使途について

〈証拠略〉によれば、セントラル開発及びセンコウ商事は、本件株式の売却代金の一部をもって本件株式取得資金の返済以外の用途に充てたことが認められる。

(8) 確定申告の内容について

〈証拠略〉によれば、原告ら関連各社並びに山田辰郎及び山田智子は、本件株式についても、セントラル航業の所有ではなく各会社ないし個人に帰属するものである旨の内容の確定申告をしていたことを認めることができる。

(9) 結論

一で認定した事実及び以上で認定した事実、すなわち、〈1〉原告ら各社はそれぞれに実体を有する法人であって、格別の営業活動をするとともに、以前から株式の売買も行っていた、〈2〉各会社名義で本件株式を購入し、購入した本件株式は各会社名義ごとに区別して管理されていた、〈3〉購入のためには原告ら各社の自己資金も充てられ、逆に売却代金がすべて本件株式取得目的の借入金の返済に充てられたわけではない、〈4〉購入のためにセントラル航業などから資金を借り入れている原告ら各社もあるが、この場合でも通常の原告ら各社間の借り入れの場合と同様の扱いがされ、返済にあたっては原告ら各会社間の通常の借り入れの場合と同様の利率による利息を付された、〈5〉会計帳簿上も「借入金」「貸付金」として処理され、原告ら各社に帰属するものとして申告がされた等の事実のほか、なによりも原告ら関連各社間において本件相対取引を含む本件株式の譲渡が行われたこと自体を総合すると、本件株式は原告ら各社がその名義のとおり実質的にも取得していたものであって、セントラル航業のみに帰属するものではないと判断すべきである。

2 本件相対取引によって原告らに発生した収益について

(一) 被告らの主張は、本件株式の譲渡によって原告らに発生したとみられる収益の算出は本件株式の時価によるべきであり、一般に自由な取引市場が存在する商品の場合には、原則として右市場における取引価格をもって時価とすべきである、というのである。

(二) 本件株式の時価について

(1) 一般に財産の時価とは一定時におけるその客観的交換価値をいい、当該財産につき不特定多数の当事者間における自由な取引において時価が成立する。株式の場合も証券取引所に上場されている株式については、市場を通じる不特定多数の当事者間の自由な取引によって成立する市場価格をもって時価とするのが相当である。すなわち、上場株式については、譲渡性を有する株式の取引が公正な価額により円滑且つ迅速に行われるための流通機構として証券取引所及びその開設する有価証券市場が存在している目的からみて、特段の事情が存しない限り、当該株式譲渡がなされた当時(必ずしも「当日」に限らない)における取引所価格をもってその時価と解すべきである。

〈証拠略〉には、〈1〉取引所価格は企業の実態を反映せず、日本の株式は異常な高株価になってしまい、また、日本の株式市場は変質し、四大証券会社が支配する寡占市場となり、株価操作等がまかりとおる不公正な市場と化したこと、〈2〉企業支配という株式取得の本来の目的をもって行われた本件相対取引は異常となった市場価格に拘束されるべきものでないとしてその価格が取引所価格と異なったものとされたこと、とする部分がある。

しかし、仮に公表価格が企業の実勢をそのまま反映していないとしても、また株価操作等がまかりとおる不公正な市場であったとしても、不特定多数の者が上場株式の取引を行っているのは証券取引所及びその開設する市場のほかなく、この市場が不特定多数の当事者間における自由な取引の場であることには変わりはない。

また、種類物である株式の場合には、仮に株式市場における価格以下の提示を受けた株式保有者は右提示を受けないで株式市場においてこれを売り出すことによって右価格に相当する譲渡益を取得することを一般には期待することができるし、逆に右価格以上の提示を受けた株式買受希望者は株式市場においてこれを買い受けることによって右価格によって株式を取得することが一般には期待できるのであるから、株式取得の目的いかんによってその時価が変化するものとはいえない。

(2) そこで、本件株式の時価について具体的に判断する。

〈証拠略〉によれば、本件株式は昭和六二年五月ころまではほぼ安定した価格(一株五〇〇円から六〇〇円まで)で取引されていたところ、同年六月から価格の上昇が始まり、同月の最高値八〇六円(最安値六〇〇円)、同年七月同じく九三〇円(同じく七五五円)、同年八月同じく一三九〇円(同じく九一八円)、同年九月同じく二三〇〇円(同じく一二五〇円)、同年一〇月同じく一八六〇円(同じく一三五〇円)、同年一一月同じく一五五〇円(同じく一〇一〇円)、同年一二月同じく一九一〇円(同じく一二五〇円)という値動きを示したこと、この間のアジア航測の営業実態にさほどの変化がないことからも判断して右の急騰は原告ら関連各社の本件株式取得によって触発継続されたものであったこと、本件相対取引当事者相互にもその旨の認識があったこと、また、同年六月の終値の値動きは、順に、六〇〇円、六二一円、六一八円、六二〇円、六一五円、六〇五円、六一〇円、六二〇円、六二〇円、六一六円、六一五円、六二〇円、六三七円、六二二円、六四〇円、六六六円、八〇六円、七九七円、七〇六円、七三一円、七五〇円、七七〇円、七七五円、七六五円、同年七月は、順に、七七〇円、七八〇円、八三〇円、八四〇円、八二四円、八〇四円、七八四円、七八〇円、七八五円、八四五円、九〇四円、八九七円、八五〇円、八九〇円、九〇〇円、八八〇円、九二〇円、九〇〇円、九〇〇円、九〇〇円、九一九円、九〇〇円、九二八円、九二〇円、九三〇円、同年八月は、順に、九二〇円、九五〇円、一〇六〇円、一二三〇円、一三六〇円、一二八〇円、一二四〇円、一二三〇円、一一二〇円、一一四〇円、一一九〇円、一二五〇円、一二〇〇円、一二〇〇円、一二二〇円、一三〇〇円、一三〇〇円、一三〇〇円、一三〇〇円、一三〇〇円、一三〇〇円、一二八〇円、一二九〇円、同年九月は、順に、一三五〇円、一三七〇円、一三九〇円、一三九〇円、一三九〇円、一三七〇円、一三〇〇円、一二六〇円、一二八〇円、一二七〇円、一二八〇円、一三〇〇円、一三九〇円、一五九〇円、一八九〇円、二一五〇円、二〇九〇円、一九二〇円、一六五〇円、一六六〇円、一七〇〇円、というものであったこと、をそれぞれ認めることができる。

右のような本件株式の値動きの激しさからみると、被告らが主張するように本件相対取引当日の終値をもって当該取引における時価であるとすることは、偶然性が高く、合理性があるとはいえないことが明らかである。すなわち、一般には株式の時価はその当時の公表価格に近いものと推定されるとしても、本件株式のような値動きを示している場合には、特定の日の価格をもってそのまま時価であるとすることは正当でないというべきである。

現に、松阪屋株式の取引に関する被告らの主張によれば、少なくとも一定期間の幅をもって時価を決定する手法を用いることも自ら容認したものと解されるところである。

ちなみに、株式の取引対価については、法及び所得税法並びに各同施行令上実際上の評価方法に関する規定がなく、周知のとおり、相続税に関する財産評価基本通達によれば、上場株式については〈1〉課税時期の最終価額によって評価することを基本とするものの、〈2〉課税時期の属する月の毎日の最終価格の月平均額、〈3〉課税時期の属する月の前月の毎日の最終価格の月平均額又は〈4〉課税時期の属する月の前々月の毎日の最終価格の月平均額、のうち最も低い価額を越える場合には、その最も低い価額によって評価するものとされているところである(もっとも、相続税における資産の評価は、その安定性等を考慮して時価よりも若干低く評価されており、これをそのまま本件のような事例にあてはめることはできない)。

(三) 原告らにおいて発生した収益の具体的な算出について

右に見たように、原告らにおいて発生した収益の具体的な算出の基礎として本件相対取引当日の終値を用いることはできないと解すべきところ、被告らは本件株式の時価として右価格のほか何らの主張立証をしないから、原告らの間における取引価格が時価を下回ることの証明がないことに帰する。

したがって、(一)で述べたような被告らの見解を採ったとしても、本件相対取引によって原告らにおいて発生したとされる収益がいかほどのものであるのかについては証明がないことに帰する。

4 交際費について

〈証拠略〉によれば、昭和六三年三月期のデントレーディングの資本金の額は二〇〇〇万円であることが認められるから、昭和六三年法律第四号による改正前の租税特別措置法六二条一項の規定によってその損金に算入できる交際費は三〇〇万円に限られる。

したがって、承継前の被告京橋税務署長による本件処分はこの限度において正当であるが、法五七条の規定によって繰越欠損金として右所得に相当する金額を減算することになるから、結局所得金額は〇円となる。

5 ところで、原告太陽生コンクリートの昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分(平成元年一二月二五日付)については、被告松任税務署長において認定した所得金額が〇円であることは当事者間に争いがないから、同原告において右認定の理由が異なるとしてこれの取消を求める利益はないものというべきである。

三 二で検討したことを総合すると、本件相対取引において、被告らが認定した時価と譲渡の価格の差額に相当する金額を益金に算入し、また、被告らが認定した時価と譲渡の価格の差額に相当する金額を寄付金に算入して行った本件各処分はいずれも(二5に係る部分を除く)その限度において違法である。

四 以上判示したところによれば、その余の点について論ずるまでもなく、本訴請求は、主文一掲記の限度で理由があるから認容し、その余は訴えの利益がないからこれを却下し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九二条但書、九三条一項本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本良成 上田哲 二宮信吾)

〈別表及び別紙略〉

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